家具制作鯛工房

モダンでシンプルな家具を制作する家具椅子工房です

工房で行う曲げ作業の実際

工房や自宅でわりと簡単にできる方法 としては、「冷間法」「電子レンジによる曲げ」「蒸材法」などがありますが、その中でも本格的な曲げが可能な方法が「熱間曲げ」の中の、「蒸材法」です。ポピュラーで簡単、かつ効果的な方法で、大抵の物はこの方法で曲げることができます。蒸し器を使って木材を蒸し、木材を軟化させ、フォーマー(型)に当てて曲げる方法です。

工房で行なう曲げについて、長所・短所・要点を述べ、次に必要な機材の説明を行い、最後に曲げ手順を解説していきます。

[長所]

  1. 製品(作品)にカーブを取り入れることにより、見た目にも、使用上も非常に優しくなる。
  2. 多様な消費者のニーズに対応することができ、付加価値をのせることができる。
  3. バンドソーなどで挽き抜いたのでは不可能な部材が得られる。
  4. ノコで挽き抜いた材より強く、ある面では材料の節約になる。

[短所]

  1. 比較的、木目の通った良材が必要である。
  2. 様々な周辺装置にコストがかかり、それを回収するのがかなり困難である。
  3. 失敗がつきまとうため、それを克服するだけの経験や、きちんとした治具が必要。
  4. なかなか設計通りの曲率に仕上がらない。ファジィーな感覚に慣れる必要がある。

「蒸材法」による曲げ木自体は、必要な道具、治具を外注加工しなくても、ほとんど自分自身で用意できるという性質の技術です。この点も長所といえるかもしれません。また、仕上りの「R」にばらつきがでますので、それを見越した設計が必要かもしれません。換言すれば、あまり厳密に考えないで、ある程度、逃げをみこすという考え方が必要でしょう。製品として完成すれば多少の「R」の違いは気になるものではありません。
作業的には、治具の製作などにかなりの時間、コスト、労力やリスクを負うことになります。私の場合、直接の動機は、後脚を曲げたスラットバックチェアをどうしても作りたいという事でした。そういった情熱が何より必要だと思います。
椅子作りにおいては、無垢曲げでなければならないというケースもあります。ぜひ一度トライしてみて下さい。

[大まかな作業手順]

  1. 材料を選ぶ。
  2. 材を蒸す、あるいは煮る。
  3. 帯鉄を当てて曲げ、型に固定。
  4. 乾燥。

■曲げの材料について (曲げに適する材料として)

  1. 木理の通りがいいもの(目切れの少ないこと)。
  2. 可塑性に富むこと(粘りのあるもの)。
  3. 節、あて、密度の著しい差などの欠点の少ないもの。

材種としては、針葉樹よりも広葉樹のほうが適しており、国産材に比べ南洋材は曲げにくいということがいわれます。実際に私がマレーシアにおいて、様々な樹種の曲げ試験を行いましたが、多くの南洋材はうまく曲がりません。ラバーウッドは曲がりやすいほうですが、それでも乾燥北米材に比べ、相当に曲げにくい材料です。
ニレ、セン、ナラ、ケヤキ、ブナ、シオジ、ヒッコリー、クルミ、カエデなどは曲げやすく(特にニレ、ブナは曲げやすい)、南洋材でもゴム、タウン、チーク等は、比較的曲げやすいといわれています。
同じ樹種であっても、産地や部位等によって材の性質が異なるため注意が必要ですし、材の重量や成長率の違いが、曲げやすさや、仕上り「R」の違いに関連性があるとの報告があります(米農務省・森林プロダクト研究所)。グリーンウッドワーカー(生木を用いて木工を行うウッドワーカー)も述べていますが、その土地の材は、自分でトライして確認してみるしかないということです。

要は、ポキっと折れるようなもろい材料は総じて曲げにくいということがいえますし、針葉樹は内側に挫屈が入りやすく上手く曲がりません。トロピカルウッドは繊維が短く、交差木理でフレキシビリティに欠けますから、割れと座屈が同時に発生する場合も多く、極一部を除き、曲げには適していません。

■材の事前準備について

できるだけ目切れの少ない材料を選びます。材はある程度きれいに仕上げ、面もある程度取ったほうが、割れが入りにくく、失敗は減少します。しかし、現実的には面を取るのは面倒ですので、木取った後、そのまま使用する場合が多いようです。
材料は天然乾燥材が良く、含水率が低い場合は20~30%前後までもどしたほうがいいようです。しかし、天然乾燥材は特に戻さなくても結構曲がるものです。戻す方法は、12~24時間程度水槽に浸けておきます。水浸時間は材の硬軟等で違ってきます。鉄製の水槽は木材が反応して黒く変色するので使用してはいけません。
人工乾燥材を用いても曲げることは可能です。その場合は、一晩~一日以上水槽に漬けておいたほうがいいようです。曲がり易くなります。また、含水率が高すぎると曲げた内側の面にシワが入ります。
仕上がりが丸いものは、最初に丸く加工しておいたほうが、曲げた後で丸く加工するより作業は楽ですが、ベンディングストラップ (当て金) の接触する部分が線接触になりますので、割れが入りやすいという弱点があります。
なお、木取った材料は、水に漬ける前にセンターに油性マジックでマークをしておきます。このマークを中心に曲げます。柄穴などは曲げた後に開けます。

■蒸材時間

曲げ加工を行う際には、事前に軟化処理する必要があります。木材の可塑性を増やして曲げ加工を容易にし、失敗を少なくするためです。これは、ボイリングやスチーミングが一般的です。ボイリングとスチーミングは、熱と水分を与えるという点でほとんど同じと考えて良く、軟化処理の主な要点は、木材の「含水率」、「処理温度」、「処理時間」です。
生木を用いた場合は1インチ(約25mm)角で30分。天然乾燥材で1~2時間程度蒸します。日本では、一寸(約30mm)で1時間といわれる場合が多いようです。これも材の性質により多少違ってきます。
長めに蒸すという方もいます。長めに蒸したほうが曲りやすいということはいえますが、必要以上に長時間蒸しますと(あるいは煮る)、材は脆くなりますし、変色する場合もあります。また、短すぎますと曲げにくいし、材によってはスプリングバックが発生する可能性が高くなります。
Andrew Weegar 氏(ボート、カヌービルダー)は、3/4インチ(18mm)以下の材は1時間蒸すが、1インチの材は、2時間かそれ以上蒸すといっています。35mm 角程度の材で、トム・サックレー氏 (ウインザーチェアメーカー/英国)は1時間以上、2時間以内程度蒸します。

北海道立林産試験場の試験データーを紹介しておきます。
曲げを行うには、繊維飽和点(含水率30%)前後の木材を用いるのが良いと言われる。そのため、材料によっては、含水率を繊維飽和点近くまで高めて曲げを行う場合がある。ボイリングにおける繊維飽和点(含水率30%)に到達する一つの試験結果時間は、国産材では、ブナが30分、タモは1時間、ナラ、カエデは2時間であった。
(この試験で使用した材料のサイズ:20×90×580mm)

■参考文献
研究結果報告書:輸入材と特産材の加工特性に関する研究 / 北海道市林産試験場 / 昭和43