はじめに
曲げ木 (特に無垢材を用いた曲げ) は古くから行なわれている木材加工の技術の一つで、ことさら特殊なものでも、難しい技術でもありません。ポート、樽、器の類はクラシックな曲げの例ですが、アメリカ先住民であるインデイアン達は、伝統的に木を曲げ、スノーシューズ、ソリ、リュージュ、カヌーなどを作ってきたし、ヨーロッパでも古くから曲げを用いた椅子などが作られており、スラットバックチェア(ラダーバックチェア)と呼ばれる椅子は、中世(およそ 1100~1450)にはすでに存在し、彼等の木版画や銅版画にはしばしば登場しており、その起源はそうとう古いものであることが想像できます。
以前テレビで目にした、東北の老人がカンジキを製作するための曲げの方法は、桑の木を直接羽釜の上に乗せ、その上に覆いを被せただけの簡単なもので、材に蒸気をあてた後、型に押しあてて曲げるというものです。蒸気の大部分は逃げています。曲げ木とは基本的にそのように簡単にできるものだと考えて差し支えありません。帯鉄も当てずにカンジキの先端部の厳しいカープが成形できていますので、生木をクサビで割り、繊維が通った材を用いていると考えられます。
伝統的な曲げの技術を工業的な多量生産の技術へ焼き直したのは、オーストリアのミカエル・トーネット(1796~1871)で、1840年、ミカエル法と呼ぼれる、帯鉄を用いて成型する方法を考案し、歩留りを飛躍的に向上させ、大量生産の技術として確立させました。これは無垢材を効率よく曲げられるようにした技術で、木材をスチーミング、またはボイリングして可塑性を高め、帯鉄と共にフォーマー(型)に沿わせて木材を強制的に曲げ、固定し、そのまま乾燥させるというもので、曲げられた材はその状態を保つというものです。軽快でモダンな彼の曲木椅子は、その後非常な普及をみました。
日本で初めて曲木椅子が作られたのは1907年であり、1910年には、今日でも曲木椅子で有名な秋田木工が「曲木製作所」として創業を開始しました。
ウインザーチェアや、スラットバックチェア(ラダーバック チェア)を製作するには曲げの技術が欠かせません。また、家具製作においても何かと応用のきく技術だと思われます。
家具制作鯛工房では、曲げ木を使用したウインザーチェアの製造・販売を行っています。製品サンプルは、ギャラリーでご覧下さい。