木材の可塑性と曲げ
木材は、生木のように水分を多く含んでいると、曲げやすいということは容易に理解できます。木材を構成している主な組織にはセルロースが結晶したミクロフィブリル、へミセルロース、リグニンがあります。木材を曲げるということは、ミクロフィブリルは結晶物質のためほとんど温度、水分の影響を受けませんが、リグニンとヘミセルロースは高含水率・高温度状態で軟化し、木材組織の壁が緩み、その結果ミクロフィブリルの動きも容易になります。そのため木材は柔らかくなり、曲げ加工が容易に行なえると考えられています。しかも、木材の圧縮変形の場合、引張り変形に比べ、大きな変形が可能です。
室温で含水率17%の場合、ひずみ量が引張りで1%程度、圧縮で5%程度になれば木材は破壊するのに対し、含水率33%、温度約100℃での場合は、引張りで2%、圧縮では35%以上になっても破壊しません。もしも、木材の引っ張り変形を押さえ、圧縮させるだけで曲げることができれば、木材を破壊することなく、小径まで曲げることができるはずです。そこで、ある程度より小さい半径に曲げる場合、木材の伸びる側に適当な厚み(注1)の帯鉄を当て、帯鉄と木材を一体として曲げ、引張り広力を帯鉄にになわせ、木材には圧縮カが幼くようにすれば、木材は破壊することなく曲るわけです。この方法がトーネット法と呼ばれ、今日一般に利用されている方法です。
注1)帯鉄の厚みについて
大雑把な計算ですが、ハードウッドと帯鉄のヤング率をもとに、二つの素材の応力が接触面で釣り合うとして帯鉄の厚みを計算すると、帯鉄の厚みは曲げる木の厚みの約 1/10 弱という結果が出ています。しかし、同じ樹種でも均質ではありませんし、帯鉄も軟鋼とハガネでは伸びる量も違います。工房で行う曲げの場合は、厚さ 1mm 位の帯鋸盤のブレードをシャーで適当な幅に切断して用いるのが現実的だと思います。