熱間曲げ
熱を加えて曲げる方法には以下のような種類があります。ここではポピュラーなものだけ取り上げました。
■煮材法
煮材法も、材を煮るという違いはありますが、材に対する配慮等は、蒸材法とほぼ同じと考えていいと思います。椅子の後脚の背もたれ部分だけを曲げたい場合や、スピンドルのような細い材を曲げたいときに煮材法はいいかもしれません。
材の一部を曲げたいときには、曲げたい部分だけお湯に浸けます。この方法の弱点は、曲げた後、材が乾燥するのに時間がかかるということです。スピンドルのように細い材の場合は、お湯に浸ける時間も短くて済み(30分以内でOK)、乾燥にも時間はかかりませんのであまり問題はないと思います。
■蒸材法
熱間曲げの蒸材法については、低圧法と高圧法があります。高圧法は圧力鍋と同じように、加圧して蒸すものです。高温で蒸すことができるため、蒸し時間は短くてすみますし、曲げやすくなります。通常工房で利用できる技術ではありません。
■蒸材法・低圧法 (常圧法)
基本的に昔から使われている蒸し器(蒸篭:セイロ)で使って蒸す方法と同じです。ただ、材料が入るようなサイズにセイロを作るという違いくらいです。工房での曲げ作業において最もポピュラーで実用性が高い曲げの方法です。この方法については後ほど詳しく解説します。
■電子レンジによる曲げ
工業的な曲げ加工においてマイクロウェーブは広く利用されています。ワークショップでの曲げ加工においても、マイクロウェーブ、即ち家庭用電子レンジは利用価値が高いものです。ただし、庫内のサイズが小さく、大きなものが入らないのが欠点ですが、小さなものの曲げには非常に適した電気製品ということができます。
電子レンジは、マイクロ波という非常に波長の短い電波(波長12.2cm)を用いて食品を加熱します。マイクロ波は、交流電流のようにプラスとマイナスを繰り返しながら材料に照射されます。一方、食材や木材の分子は、プラスやマイナスの性質を持っています。この分子は外部から加える電界の向きに応じ、向きを揃えようとしますが、周波数が高くなるにつれ追従できなくなり、振動や回転による分子相互の摩擦によって発熱します。
また、水はエネルギーの吸収、損失が大きく(つまり発熱が大きく)、加熱に理想的な物質で、周波数、10GHz、915MHz、2450MHzで大きな損失を示します。電子レンジが利用しているマイクロ波の周波数は2450MHz(1 秒間に24億5千万回変化)です。このため、水分を含む材料は発熱し易いのです。ちなみにセラミックスは透過し、金属はマイクロ波を反射します。
マイクロ波を用いるメリットとしては、内部まで短時間で加熱でき、加熱時間の短縮ができる。エネルギー効率が高いということができます。
装置自体は、マイクロ波発振器、加熱室、導波管、アンテナ等の加熱部から成り、シンプルです。また、離れた場所までマイクロ波を運ぶことが可能ですから、改造して局部的な加熱(ノイズの問題を解決する必要があります。以前、某メーカーで見たことがあります)も可能かもしれません。
参考として椅子の「スピンドル」を曲げる場合のプロセスを挙げます。
- 一晩水に浸けておく。あるいは、熱湯の中に30分漬ける程度でも良い。または、材料に水を付けてラッピングし、レンジに1~2分くらいかけてもよい。つまり、ラップの中で蒸すということ(この場合、このまま型にセットし、もう一度レンジにかける)。
- 型にセットし型ごと電子レンジにかけます(写真上)。時間は1~2分程度です。不十分な場合はこれを繰り返し、水分を十分飛ばす。短すぎるとスプリングバックを起こし、長すぎると焦げます。曲がりにくい場合は材料をラッピングしておきます。
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十分冷えた後、型から外します(写真下)。
ほとんどスプリングバックなしに曲げることができます。
電子レンジ使用上の注意点は、長時間マイクロ波を当て過ぎない事です。最悪の場合木材が焦げますし、木材中の樹脂が析出して染み出てきます。こうなると木材は脆くなってしまいます。出力にもよりますが、1回1分前後を目安とし、各自でテストを行って下さい。
これを一例として各自アレンジしてください。