形にまとめる - バランスをとる
■形にまとめる - バランスをとる能力
基本的な形状が決定した後は、具体的な寸法の決定に入ります。私の場合、1mm ピッチのA4サイズやロール状のセクションペーパー(グラフペーパー)に、椅子は原寸で検討、複雑ではない簡単な箱物は1/10で検討します。箱物でもモールド部分や、カービング部などのディテールは原寸で検討しなければなりません。
ただし、寸法は材料によって制限されますから、材料からの仕上がり寸法を考慮しなければなりません。材料の制限の中で最大の効果を上げるようにもっていくのもデザインの仕事だからです。
また、ラフスケッチ段階で非常に良いものが描けた場合、そのイメージを壊さないように慎重に検討しなければなりません。
椅子の場合、ラフスケッチをスキャナーでパソコンに取り込み、ドローソフトなどを用いてアレンジし、自分のイメージに近づけてからプリントアウトしておくのも一つの方法です。そのイメージを忠実に原寸に焼き直します。
[参照]
このようなドローソフトはとても便利です。適当に描き、スキャナーで取り込んだ後、余分な線は消せますし、回転させて全てのスケッチを水平に直せます。また、正面図など、スケッチの半分がよければミラーリングで全体を描写できます。縮小・拡大も思いのままです。これでアレンジしたものは、スタイルの方向性の確認として、そのまま打ち合わせにも使えます。
カーブなどソフト上で描くのに時間がかかる場合は、プリントアウトし、修正ペンで直し、手書きします。全てをソフトで行おうとせず、作業性の良いほうを選択していきます。
上のイラストは最初のスケッチです。A4サイズの普通紙にボールペンで描いたものです。下図の椅子正面図は、取り込んだスケッチから右上の椅子を選択し、回転させて水平にし、使える左半分をコピーしてミラーリングしてくっつけたものです。この程度ものでも、カスタマーとの大まかなデザインの方向性の確認などには十分使えます。
いくつかのフリーソフトをダウンロードし、組み合わせて使っています。フルカラーの機能満載のソフトは必要ありませんが、満足する機能のものを発見できないでいるからです。
この段階でバランスが取れないと間の抜けた作品が出来上がってしまいます。では、どうすればバランスの良い品物ができるかということ、また、そのトレーニングの方法ですが、
- 常日頃からグッドデザインの製品をよく観察すること。
- 納得のいくまで書き直す。
- 写真などのサンプルと比べてどこが違うのか検討する。
- 美術館などで現物から採寸。
- サンプル写真から寸法を割り出す。
などの作業を行い、自分が理想とする製品との差異を徹底的に埋める努力をします。デザインのコピーではありません。この作業を繰り返し行なっていきますと、自然とバランス感覚が育ってきます。なにしろ、変だなと自分で感じる場合は何度でも書き直すことです。
椅子のような二次、三次曲線の多い製品のラフスケッチからの原寸図への転換の方法は、
- 最初は新聞紙でもいいから寸法を測りながら太いマーカーペンでラフスケッチのイメージに沿って描いていく。原寸になるとイメージと多少違ってくるのでアレンジが必要になってくる。
- それを基にグラフペーパーに書き直す。曲線部はカーブテンプレートを用いる。
椅子の場合、伝統的な椅子、グッドデザインの椅子の図面が入手できれば、原寸で同じ物を書いてみることを薦めます。
椅子に限らず、伝統的なデザインをしっかり身につけることは将来非常に役立ちます。伝統的な家具のトレースは飽きのこない、味わいのある家具を生み出す基になるからです。
この段階で、プロトタイプ用の図面と各パーツの寸法は決定できるため、プロトタイプの製作に移ることが可能です。
椅子はこの時点で簡単なモデルを作って形状や座り心地の確認をします。この時点で納得のいくまで検討を重ねなければなりません。
品物によってはこの時点で、自分の持っている機械類で加工できるかどうかの検討、また、治具のデザイン、設計も必要です。治具は製作する数量によって、種類、強度も検討の対象になってきます。一つだけの場合、十個前後、それ以上の場合などによって治具はまったく違ったものになってきます。