Carl Hansen & Son 社製 ダイニングチェアを分解する
前回フレームをチェックした、Carl Hansen & Son 社(デンマーク)製ダイニングチェアの柄部分の構造を確認してみました。
デンマーク製の椅子の構造を切断して確認することはあまりありませんので、プロの家具工房やデザイナーの方にも参考になるかと思います。
先ず、シートレール・ラウンド加工されたストレッチャー(この椅子では前後の貫)の丸柄から見ていきます。
シートレール、ストレッチャーが挿入されている部分の脚径は、直径:42mm です。
この画像では、柄穴には若干の隙間がありますが、他のものにはありません。この柄は柄穴の底まで挿入されていますが、底まで入っていないものもありました。引き抜きテストではいずれも木部破壊を起こしました。接合は強力です。
柄サイズ
柄径: 20mm
柄長さ: 25mm
柄径と長さの割合はこの程度が適正です。ダボ接合(丸柄も同様)は基本的に木口との接着ですので接着強度は下がります。長すぎるダボを使用すると、一見丈夫そうに感じますが、穴側の収縮の影響を受けて接着が切れやすいのです。
ストレッチャー(貫)部の断面です。柄は丸脚の椅子の一般的な量産加工法です。
ウェグナーによってデザインされた椅子の多くは、このようなストレッチャーを用いています。強度的には丸貫よりも有利ですが、丸脚にこのような板状の貫を用いると、丸貫に比べて柄加工には手間が掛かります。
柄と柄の距離(ずれ): 2mm
柄穴はモータイザーと呼ばれる機械で開けられていると考えられます(ルーターマシンということもありえる)。この機械は、回転軸が横向きで、ビットが回転しつつ往復運動をしながら所定の深さまで進むというものです。
モータイザーに対しては、テノーナーという機械を用いて柄加工を行いますが、丸脚ですから、胴付がせり出していますのでテノーナーは使えません。そのため柄はカッターを用いて加工しています。
柄部分の拡大です。非常に綺麗な加工がされています。
穴の深さは十分すぎるように感じますが、ストレッチャーが垂直ではなく、多少角度がついているために、柄穴の深さが変わるのです。
柄サイズ
柄厚: 9mm
柄長さ: 25mm
貫厚み: 20mm
柄穴深さ: 28mm
モータイザー(おそらく)を用いて開けられた柄穴は長穴ですので、柄の両端も「R」にしなければなりません。
柄の付け根まではルータービット等で半丸に成型しているようですが、胴付付近は機械では取りきれません。最後は手鑿で「R」に取っているように見えます。
背持たれの柄部分です。背板は5プライの平行張りです(べニアを同じ方向に張っている)。
柄は驚いたことに大入れではなく、胴付き(ショルダー)を付けてあります。しかも脚が丸いので、胴付きは斜めにカットされ、隙間が出ないようにしています。
柄にはテーパーが付けられています。カーブした背板は組むときに、柄穴になかなか入っていきません。そのため、柄にテーパーをつけていると思います。
柄サイズ
柄厚(元): 6.5mm
柄厚(先): 5.5~6.0mm
柄長さ: 18mm
背板厚: 9.0~9.5mm
背板の柄部分です。背板の上端は直線ですからルーター、面取り盤 等で丸め加工ができます。しかし、下端は前から見て下に膨らむ大きな「R」がついています。柄は柄穴に平行に入りますが、円弧状から直線にはうまく繋がりませんので柄の一部を切り欠いて平行な柄に加工しています(すぐ上の写真左)。そして、その切り欠き部に斜めの小さな子根を付けています。子根穴は手加工のようです。子根は背板の反りを防ぎます。丁寧な仕事をしています。
背板の柄の子根部です。子根の斜め加工は手加工のようです。
また、柄穴がラウンドエンドですので、柄の両端も「R」でなければなりません。やはり、手加工でラフに角を取っているようです。
接着剤の種類は判りませんが、日本でいうなら、酢ビ+尿素のような感じです。柄の勘合度はそれほど「きつい」というほどではないようです。何故なら、画像でも判ると思いますが、どの部分も木部破壊無しに分解できたからです(丸柄を除く)。
チープモデルにしては丁寧な仕事をしています。メーカーのこだわりと良心が感じられます。