家具制作鯛工房

モダンでシンプルな家具を制作する家具椅子工房です

ペーパーコードの椅子張り 1:封筒張り・エンベロープ張り

Y-チェア(CH24 / Wishbone Chair)や、寿司屋や蕎麦屋のスツールに張られている張り方です。趣があり、伝統的ですが、永遠のスタンダードです。

■用意するもの

ペーパーコード、頭の大きな釘(長さ10mm 程度/コードを止めるためのもの)、木のブロック(コードの間隔をつめるためのもの)、玄翁、大きなクリップ(コードとシートレールを一時的に固定するためのもの/作業を中断する場合に使用する)、ハサミ又はペンチ(コードを切るため)、木工用白ボンド(結び目に塗って緩み防止に使う)等々。

■シートレール加工(コードがずれる場合)

椅子の座編み・シートレール加工 シートの形状が上から見て台形で、シートレールが直線の場合、サイドのペーパーコードがズレる場合があります。
その場合の対処です。
座面を張る前にサイドシートレールへ、コードのスリップ防止加工を行います。

これを防止する方法としては、サイドシートレールに、コードと同じ位の直径の丸ヤスリ(チェーンソー用の目立て用が良いようです)で縦方向に溝を入れます(写真上)。あるいは鋸を用いてV字型のノッチ加工を施します。
コードの太さにもよりますが、間隔は10~15mm、深さは2~3mm程度で良いと思います。間隔は厳密でなくても構いません。コードはそれなりに馴染みます。この加工により、コードは後ろへずれません。

基本的には、このような加工を施す前に、設計段階でシートや、シートレールの形状を考慮しておく必要があります。

■三角ゾーンの編み方(1)

座面の形状としては、正方形や長方形のものと、台形のものに大別されます。
台形の場合の編み方としては、最初に両脇の三角ゾーンを編みます。その部分の編み方として、ここでは、3種類紹介します。
編み方自体は、3種類とも同じです。

そこを処理してしまえば四角いゾーンが残るわけですから、後は四角い座面の椅子(正方形や長方形の座面の椅子)を編むのと同じことになります。

まずは、三角ゾーンの張り方を説明します。
両脇の三角ゾーンの張り方は、釘でペーパーコードを一本一本シートレールに止めていくというものです。多少手間は掛かりますが簡単です。

■手順 1

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(1)手順 1 最初に、後ろのシートレールの巾を前のシートレールにマークします。先ず最初に、このマークの位置まで張ってきます(図1)。

■手順 2

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(1)手順 2 左右どちらから張り始めても構いません。
コードの先端をサイドシートレールに釘止めします。使用する釘は頭の大きいものを用います。図では見やすいように、サイドのシートレールの真ん中あたりに止めていますが、実際はかなり前のほうに打ちます。

コードはかなり強く引っ張りながら編んでください。これは綺麗に編むコツです。

■手順 3

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(1)手順 3-1 同じ手順で、コードを一本ずつ釘で止めながらマークしたところまで張っていきます。
三角形のゾーンが張れたら、次は中央の四角いゾーンを張っていきます。
全てのコーナーで、上から下~上から下、というように編んでいきます。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(1)手順 3-2 縦、横ができるだけ直角になるように、また、座の中心に向かうコードの交点のなす45°の線が、綺麗な直線となるよう、注意しながら編んでいきます。
コードは適量を手に持ち、ラフに一周を回したら、一辺ずつ強く張っていきます。

注意:両サイドの三角ゾーンは省いています。

椅子の封筒編み・三角ゾーンを張る 右画像は、実際に編んでいる場面です。
フロントシートレールに鉛筆でマークしてあるのが見えます。このマークまで編んできます。

このマークはシートレール上に幾つか付けておき、編んでいくときに平行度の目安にするとうまく編むことができます。コードの縦、横のラインを綺麗に平行にキープして編むことが大切なのです。

実例として画像を載せておきます。古いアメリカ製のスラットバックチェアです。
両サイドの三角ゾーンを、ファイバーラッシュを釘打ちして埋めています。

実例:三角ゾーンの張り方・拡大 実例:三角ゾーンの張り方・全体

■三角ゾーンの編み方(2)

編み方(1)は、台形座面の両脇の三角ゾーンを張っていくのに、コードの一本一本を釘でシートレールに固定していくという方法でした。

この方法は、コードをシートレールに釘で止めず、最初に二つのリングを作り(図7)、それに通しながら三角ゾーンを張っていくというものです。
合理的に見えますが、意外に難しく、慣れを必要とします。

問題点として次の事柄があります。

  1. 一本のリングに多数のコードを通していくためにリングの周辺が窮屈になってしまう。
  2. 次々とコードをリングに通して引っ張るために、リングのコードが伸び、最初に張ったシート部分が弛んでしまう。
  3. 釘で一本ずつ止めていく方法は、全てのコードが同じ向きに張られます。例えば全て右回りというようにです。
    しかし、この方法は、反対側のリングに通した時点で、コードは逆回りに戻ってきます。そのために、編み方を左右対称にしなければなりません。それは、同じ手順で編んでいく(張っていく)ということではなく、例えば、全て「上~下」へ編んでいくのではなく、反対側は「下~上」というようになります。
    そのために混乱しがちで、エラーの発生にも繋がってきます。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(2)編み方 2-1 リングの長さは、サイドシートレールの長さの半分よりやや短めにしておきます。
リングが長いとコードが集中しすぎて上手く編めません(図5)。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(2)編み方 2-2 リングにコードを結び、編み始めます。どのシートレールでも同じように「上~下」と編んでいきます(図6)。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(2)編み方 2-3 反対側のリングでターンしています。今度は「下~上」と編んでいます(図7)。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(2)編み方 2-4 「戻り」の編みが終わりました。全て「下~上」と編んでいます(図8)。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(2)編み方 2-5 再び、「行き」側の編みです。「図6」とまったく同じになります(図9)。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(2)編み方 2-5 三角ゾーンを張り終えた後の四角いゾーンの編みです(図10)。

■三角ゾーンの編み方(3)

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(3)捨て巻き 1 Y-チェアなど、多くの北欧製の椅子に見られる処理です (図11)。
両サイドの三角ゾーンの部分を編まないで、前のシートレールに捨て巻きして編み始める方法です。簡単で綺麗な方法だと思います。

イラスト:椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(3)捨て巻き 2 捨て巻きを終えた後の四角いゾーンの編みです。ここから先は、「図10」の編み方と同じです。

椅子の封筒編み・三角ゾーンの張り方(3)捨て巻き 後のシートレールの位置を前のシートレールにマーク。
見えにくいシートレールの裏側にコードを釘打ちして止め、そこまで捨て編みします。
そして、中央部分の編みに入ります。
最も簡単で見栄えも良い方法だと思われます。

写真上は捨て編みの後、全体を編み始めた所、下は編み終えた所です。

■別の編み方

椅子の封筒編み・別の張り方 上記の3例は、いずれも、コードをレールの上から下へ回して、反対のレールの上から下へと持っていきました。
「上」から「下」、「下」から「上」。

この方法は、下から来たコードは相手側のシートレールの下から入り、上へ回すという編み方です。「下」から「下」、「上」から「上」。
コードは、常にシートレールと平行に張られます。

スラットバック チェアのように、サイドと前後のシートレールの高さがずれている場合(写真上のようなタイプ。Yチェアなども同じ構造)、この編み方は、綺麗に張ることが出来ると思いますし、将来の緩み度合いも少ないようです。
慣れると、どちらも同じように張ることができますが。

注意:全ての編み方は、上から見て「時計回り」に張っています。 分かりやすいよう、そのように統一していますが、もちろん、「反時計回り」でも構いません。

■その他

イラスト:椅子の封筒編み・最後の処理 (図14)は最後の処理です。座面が正方形の椅子以外は、本編みが終わると直線状の隙間が生じます。この部分の編み方です。
最後の隙間部分は、数字の8字状に編んでいきます。コードを強く引っ張りながら、十分な本数のコードを溝部分に入れて編みます。
最後は適当なところで縛ります。既製品の裏面を見てもらうと分りますが、まさしく適当な所で縛っています。緩むのが心配な方は、接着剤を併用しておけば良いかと思います。

イラスト:椅子の封筒編み・注意事項 三角ゾーンの編み方(3)の問題点は、編みによって生じる対角線の位置が、脚の付け根からではなく、三角ゾーンの中央寄からになります。
そのため、奥行きに対して横幅が十分広い座面を持った椅子以外は、三角ゾーン以外の四角エリアが縦長になり、最後の部分の隙間溝が横方向ではなく(図14) 、縦方向になり(図15)、見苦しいものになる場合があります。
椅子の設計上も注意が必要です。

イラスト:椅子の封筒編み・スタッフ 海外の資料で、編みの途中でスタッフと呼ばれる「あんこ」をコードの中に挿入している場合があります。
天然素材の場合は余った切れ端などを、ペーパーラッシュ(コード)の場合はダンボール紙などを入れ、シートを「もっこり」とさせます((図16)。図は、三角形に紙を切って三個所に挿入した所です。一枚ではなく、できるだけ多く入れます。入りにくい時は直定規のようなもので押し込んでいきます。

下画像は、「あんこ」としてダンボールを入れた実例です。
アメリカ製の古いスラットバックチェアです。 実例:封筒編み内部に入れたダンボール

イラスト:椅子の封筒編み・ペーパーコードの結び方 最後にコードの結び方を図示しておきます(図17)。
特にこの方法でなければならないというものはありませんが、参考までに我々が用いている結び方を紹介します。