材の伸縮と使用法 (2)
木材の伸縮と、それに伴う変形に対する認識と加工時における材の用い方への注意は、しない場合に比べると、作品や製品が完成から時間の経過につれ、故障の発生度合いにおいて、かなりの違いを見せつけられることになります。高含水率材の場合はなおさらです。重ねて述べますが、家具製作においては、木材の伸縮、乾燥に対する注意深い配慮が必要です。
続いて、伸縮を考慮した材料の使い方を考えていきたいと思います。
■角材を作る矧ぎ方
板材を矧いで(接着して)テーブルなどの脚に用いるような角材を得ようとする場合の接合方法です(図10)。収縮の進行により、接着された材料は、各々(図10下)のように変形していきます。その結果、どの接合において故障の発生が起きやすいかということです。言い換えれば、接着層にどれが一番ストレスを与えるかということです。
(図10)では、真ん中の図が最も故障しにくく、(図10右)が最も故障の確立が高いといえます。イラストで示しましたこの組み合わせは非常に象徴的なものです。実際の作業では、木目(年輪)の向きはさまざまですし、さらに節などがあったりして組合わせには悩んだりするでしょうが、先ずはこのような認識が大切だと思います。
なお、この事例は「Fine Woodworking 」誌(アメリカの木工専門誌)の読者からの質問コーナーに掲載されていたものに一部追加して掲載しました。
■吸付棧の木目の向き
座卓やテーブルの甲板の反りを防ぎ、かつ、伸縮を吸収する方法として、蟻型の吸付棧を用いるのは一般的で強く、効果が上がる方法として古くから多用されている方法です。しかし、この仕口も基本的に木材の伸縮の性質を認識していなければ効果が上がらないばかりか、でき上がった作品や製品がしばらくしてグラグラになってしまう危険性があるということを知らなければなりません。その蟻型の吸付棧に用いる木目の方向の種類を示します(図11)。上から下に行くにしたがってより良い使い方です。
最も収縮量の多い「図一番上」が最もまずく、最も収縮量の少ない柾目材を用いた「図一番下」が最良の使い方ということです。この場合も材の含水率によって、変化量はさらに大きく変ってきますので、さらに注意が必要となってきます。
特に、より丈夫にしようとして太いものや、幅広の吸付棧を用い、一番上のような木目の用い方をした場合の収縮量は最も大きいため、かえって故障の発生率も高くなるという、笑えない状況を招く可能性があります(図12)。
同じ事例として、正目材を用いて大入れで箱などを組み立てた場合も(図12)と同じ状態となり、乾燥が進むと柄部分が緩む可能性がありますので要注意です。
■框材の木目の向き
框組に用いる材もまた、木材の収縮を考慮しなければなりません。板目材でかなり幅の広い框材の場合、(図13左)のような一枚柄では材の収縮に伴い柄が緩みます。同じ材でも(図13右)のように二重柄にすることにより、材の収縮に伴って相手を締めていきますので柄は強固になっていきます。多少の加工の違いにより、欠点が欠点でなくなるわけです。
幅の広い、例えばベットのヘッドボードのような部材の仕口の注意点を述べます。(図14-1)のような仕口の選択は論外です。かといって材の両端に柄があるような場合は、収縮によって部材に割れが生じる可能性が出てきます(図14-2)。(図14-3)の場合は、割れ、緩みとも生ずる可能性は低いと思われますが、幅の広い材の場合には強度的に心配です。やはり(図14-4)のように、複数の柄を作り、収縮によって、相手を締めていくようにするのが良いかと思われます。柄の枚数や柄の幅は材質や部材の幅によって変えなくてはいけません。
続いて上記の材(図13・14)(横框・幕板)とそれに接合される縦材の関係について述べたいと思います。
Nick Engler 氏の著作「Joining Wood」から、テーブルの脚と幕板、あるいは扉の縦框と横框の関係における材の用い方を紹介します(図15)。(図15上)は材の収縮にしたがって柄が最もゆるんでしまう例です。幕板・縦框材とも、収縮して緩んでしまう向きに使っています。(図15下)は収縮の影響が最も少ない材の組合わせです。
また、(図15上)の事例ですが、脚の向きを(図16上)のように変えることで、脚が乾燥することによる横方向の収縮が、柄を締めますから多少改善されますし 、さらにこの柄を、二重柄に変えることにより、幕板の縦方向の収縮が柄穴を締めますので、より丈夫になります(図16中)。 加えて、この仕口に小根(こね)を付け、幕板の反り(こがえり:幕板の反りを防ぐための長さ(高さ)6mm 程度の柄を設けること。Fig.14の柄にも小根が付けられている) を防ぐということを行なえば、より品質が向上します(図16下)。
(図15・16)の認識は非常に大切です。しかし、脚物や箱物の幕板は二方向から脚・縦框に挿入されるのが普通です。(図15・16)の例ですと、片方には良くても、もう一方には不適切な組み合わせとなります。この問題の解決には、(図17)の柱のように四方柾を用いるという方法しかありません。この場合、柱の収縮により両方の柄は均等に締め付けられますので、最も良い方法といえます。また、見栄えの点でも、四方とも同じ柾目ですので、テーブルなどには最良の選択といえます。
さらに、テーブル、椅子、スツールなどには、脚と幕板を固めるための隅木を取り付けなければ強度は保証されません。可能な限り隅木は取り付けなければなりません。
■丸柄について
丸柄、ダボ接合は簡単ですが、我々が想像するより難しいジョイント法です。注意しなければならない接合方法です。
丸脚を持つスラットバック チェア(注1)の伝統的な作り方の場合、柄を同じように締めるという理由により、(図17)と同じような使い方をします。つまり、前貫と側貫のなす角の二等分線に直角となるよう脚の年輪の方向をもってくる作り方をします(図18)。そうすることにより、脚材が乾燥により収縮していくにしたがって均等に柄を締め、構造的には不利な丸柄構造の椅子にもかかわらず、強固な椅子を実現しているわけです。
以前目にしたアルフレックス ジャパンの丸脚のアームチェア(ニューステーション MK シリーズ / デザイン:川上元美)は、伝統的スラットバック チェアの作り方と同じ脚材の使い方をしていて驚きました。ハンス・ウェグナーの椅子でもそのように作られたものを私は知りません。製造は国内だと思うのですが、そんな配慮をしているメーカーがあるというのは驚きでした。
丸柄と収縮についてもう少し説明いたします。
丸柄は古くから使われ、割と簡単な仕口の一種ですが、実はなかなか難しく奥の深い仕口です。その理由は、柄の接触部分のほとんどが木端対木口であり、接着剤が効きにくいためです。伝統的なスラットバック チェアは、その弱点をカバーするために、さまざまな対策が施されています。それが脚材の年輪の向きを考慮し、また、柄先をカラカラに乾燥させて組み立てるということです。
ジョージ ナカシマも事前にストレッチャーをヒーターで乾燥させていましたし、Thomas Moser 氏も自著の中で、ストレッチャーの先端の含水率はゼロパーセントにすると記述しています。
参考までに、Drew Langsner 氏のウィンザー チェアやスラットバック チェアの脚や貫の柄先の乾燥法は、20リットルのオイル缶の底にきれいに洗った砂を入れ、電気コンロに掛けて暖め、その砂に貫などを刺して乾燥させるというものです(図19)。貫の先端だけを局部的に全周にわたって乾燥することができるうまい方法だと思います。ただし、電気コンロで20リットルのオイル缶に入れた砂を暖めるのはかなりの時間を要しますが…。このような配慮がスラットバック チェアやウィンザー チェアを丈夫なものにしているわけです。まさしくヨーロッパの伝統文化だと思います。
関連事項ですが、例えば椅子のキットなどで、ストレッチャーの直径が穴に比べ、大きすぎることがあっても絶対に最初から削ってはいけません。また、柄部分を玄翁などで叩いて木殺しをして組みたててもいけません。まずストーブなどで柄先をカラカラに乾燥させ(あるいは炬燵に入れて全体を乾燥させる)、それでも大き過ぎて脚が割れる危険性がある場合のみ削ったり、木殺しをします。最初は、柄が多少きつめだと思っても乾燥させることにより、部材によってはブカブカになります。それを最初から削ったりしますと、わざわざ壊れるものを作るようなものです。
なお、乾燥により柄先があまりにブカブカになった場合は、空間充填性のあるエポキシ系の接着剤を用いたほうが良いでしょう。そして、含水率がある程度戻るまでは、その椅子は使用してはなりません。
以前にコムバック ウィンザー チェアを作ったときのことです。乾燥の効いた会場で展示する予定でしたかから、脚やスピンドルの柄部分は十分に乾燥させて組み立てました。勿論クサビは電子レンジで加熱、乾燥してから用います。たまたまウィンザータイプの椅子が他にも出品されていたのですが、会期終了のころには、その椅子の脚は収縮し、座の柄穴との間に隙間が生じていました。けして自慢するわけではありませんが、私の品物はなんともなっておらず、収縮の認識の大切さをあらためて実感しました。ちなみに、φ20mm の丸棒を乾燥させることにより直径が、φ19.5mm 前後位までは簡単に収縮します。実に恐ろしくなってしまいます。これは外周方向(木目のタンジェント方向)の場合です。中心方向(木目のラジアル方向)の収縮量はもう少し少ないようです。
丸柄(ダボ接合)についての関連です。丸柄もダボ接合も基本的には同じ接合方法です。Tage Frid 氏は「テキストの間違い」という彼の書いた記事の中で、「テキストに於ける最大の間違いは板矧ぎにダボを用いることであり、ダボ接合は強いと記述している。それは間違いであり、板矧ぎの正しい方法はダボを用いないことである」と述べています。
彼は椅子などにもダボは決して用いないそうです。「量産メーカーではダボを用いることによって非常に早く製造することができ、メリットがあるが、我々クラフトマンにとってその方法は良いとはいえない。なぜなら、板目面の接着力は強く、木口面の接着力は弱いわけで、ダボ接合においては板目部分は3mm 程度しかなく、これが一般の柄接合のほうがダボ接合より強い理由である。ダボ接合が良好なときは、材を長手方向に接合する場合である」 といいます(図20)。
板矧ぎにダボを用いない理由は、ダボが長いほど板の収縮に対し、それが突っ張るため、かえって接着が切れやすいこと、接着も期待できないことであるようです。そして、彼はイモ矧ぎを提案しています。
参考までに、ダボ(丸柄)の場合、打ち込まれる深さは直径の1.5倍程度が良いということがあるようです。
注1)スラットバック チェアについて
スラットとは背もたれの薄い板を意味し、ラダーバック チェアと呼ばれる場合もあります。ラテンヨーロッパの国々、つまり地中海沿岸諸国がルーツで、中世にはすでに存在し、古い木版画や石版画にも描かれているのを見ることができます。グリーンウッド ワーキングと呼ばれる、生木から作る木工のジャンルの製品の一つです。
シェーカーのサイドチェアのルーツでもあります。現在でも欧米の家庭では数多く使用され、ウェグナーやクリントなど、数多くのヨーロッパのデザイナー達の手によってリデザインされ、製品化されています。ウィンザー チェアやペザント チェア(ツーボード チェア)などとならび、最も不偏性のある伝統的な椅子の一種であることに間違いありません。