材の伸縮と使用法 (3)
■板矧(その他)
ダボに比べて長さは短いとはいえ、同じことは雇核(やといざね)にも当てはまります。雇核には縦木と横木使いがあり(図21)、強度を求めるには横木を用いるといわれたりします。しかし、前項の観点からいえば、縦木使いのほうが材の自由な伸縮を阻害しないことになります。
■バタフライジョイントの問題点
千切り(バタフライジョイント)についてもやはり同様です。千切りは材が乾燥するほど矧ぎを引き寄せると書かれたものもありますが、これは間違いです。装飾を兼ねて大型の千切りを入れてある場合、やはり材が収縮していくにしたがって千切りが突っ張り、矧ぎ口が切れる可能性があります。(図22-右)のように鎹が打ち込まれた場合を考えると良く判ると思います。(図22-左)はイモ矧ぎです。全体に収縮します。
同じ千切りでも、ジョージ・ナカシマによって製作されたテーブルの甲板で、バタフライジョイントされた部分が少し離されたものがあります(図23)。意匠的にも気の利いた処理ですが、このようにした場合は材が乾燥するほど締っていきます。
千切り自身は十分に乾燥させたものを用いなければなりません。テーブルトップの材などよりも含水率の高い材料で加工した千切りを用いるようなことは避けたほうが良いと思います。常に過乾燥の状態で用い、打ち込まれた状態で湿気を吸収し、膨張するようにするわけです。それによって強固なバタフライジョイントになります。乾燥への気配りにより、仕事が手離れした後、その仕口は木材自身によって完成されていくのです。
千切りの手軽な乾燥法としても電子レンジを用いるのがいいと思います。いきなり長時間レンジにかけると材が焦げますので、一分以内を目安にし、注意しながら行ないます。
■端嵌接
その他、収縮とそれに伴う変形に関して関連事項を述べます。
端嵌接について述べます。テーブルトップなどのように広い端嵌接で、多重柄を用いると割れの発生や矧ぎが切れるなどの故障の発生率が高くなります (図24)。
また、 本核端嵌接の場合ですが、Tage Frid 氏は、次のように言います。「端嵌を用いることは正しい、しかし、それを接着してしまい、伸縮の自由を奪うと甲板が割れてしまう。
最も良い加工法はスライディング ダブテールであるが、本核端嵌の場合、接着剤を用いるのは中央部のおよそ1インチ(約 25mm)位にすべきである。接着剤よりピン(ダボ)を中央部に打込むほうがより確実である」(図25)。この場合も、割れや矧ぎが切れる度合いは、板幅、含水率、柄の間隔、板目柾目の違い等によって変ってきます。
■木ネジの問題点
木ネジで厚い材を接合する場合です。私は木ネジの頭を沈めます。これによって厚みをキャンセルし、伸縮の影響を最小限にしようとするわけです。木ネジは強力なようですが、材の収縮により見掛けよりも締結力は落ちます。また、木ネジや釘の頭を隠すダボは打込みすぎるなと言われますが、コバダボの場合はともかく、打込みすぎると材の収縮により、必ずダボの頭が出てきますので、途中に空間を設けるようにします(図26左)。特に 厚めの柾目材はより収縮の影響が出やすいので十分な注意が必要です(図26)。
(図26)と同じケースの収縮に考慮したキャビネットの仕口の例です。前述と同じく甲板(天板)の厚みをキャンセルします。この仕口で製作したキャビネットは、厳しい環境に置かれた場合でも導付が切れることはありませんでした(図27)。
■コマ止め
コマ止めのコマの木取りにもできれば注意すべきでしょう。柾目材ではなく板目材を用いるようにします。乾燥によってコマが緩むのをなるたけ防ごうというものです(図28)。
「家具の實用工作法」にはコマ止めについて次のような記述があります。
「駒留は矧ぎ合せ甲板取り付けにおいて最良の方法である。木製の駒を幕板の小穴に差込み、これを甲板に木捻締とするのである。
甲板が収縮、膨張の場合でも駒は甲板に取付いたまま小穴の中を動き、しかも幕板と甲板は緊結されているのである(図29右)。
(図29左)は鉄板を幕板に彫り込み、これを甲板に木捻締めとするのである。框組み甲板に用いられる」とあります。注意して頂きたいのですが、このタイプのフラットな取り付け金具を、框組み甲板ではなく、無垢板の矧ぎ合わせ甲板の取り付けに用いている場合がありますが強度的に不十分です。無垢板の場合は必ずL型か木製のコマを用いなければなりません。
コマ止めの詳しい解説を行なっています。
■その他
(図30)はスリザンと振れ止の断面です。振れ止は木裏が引き出し側にくるようにしています。振れ止めが反っても抽斗に接触しない配慮です。これも一例ですが、場所によって材の向きに気を使うことは大事なことだろうと思います。
玄能の柄は火鉢の灰の中に長期間入れておいてからすげる。また、すげる前の鑿の柄の乾燥も大切です。鉋は買ってきて使われる環境で一年くらいほっといて、なじませてから仕込む。木、竹釘は炒ってから使う 等々、伸縮への考慮に関して昔から言われてきたことは多々あります。
今まで書いてきました材の伸縮に対する認識は、良質で故障の発生が少なく、長く使い続けられる家具、木工製品において不可欠の事柄でありますが、日本の家具、木工のテキストに記述されていない部分も多いと思います。また、伸縮に関し、理解していても現実にはなかなかそのようにできない場合も多々あります。しかし、このような認識を持つことの大切さをどうか十分理解して頂きたいと思います。