水性ビニールウレタン系接着剤
1996/9/28小国木材加工研究所主催で、接着についての講習会が行われました。
講習会は主に通称「水ビ」、「水性ビニールウレタン系接着剤」、正確には「水性高分子イソシアネート系接着剤」についての説明、質疑応答が行なわれました。
以下、講習内容について、私が書き留めたもの中から主だったものを述べます。不正確な箇所や、記憶違い、適切ではない表現もあるかと思われますが、御了承下さい。
- 接着の前に充分な乾燥が必要であること。乾燥により、木材内部の応力を抜くこと。そのことが接着にとってなにより大事な点である。
- チーク、カリン、コクタン、ブビンガ等、ヤニ、油っぽい材の接着には注意のこと。このような材はサンドペーパーなどを用いて接着面を荒す、シンナー、ベンゼン、アルコールなどを用いて油分を取り除くことが必要になってくる。
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「水ビ」による接着ではイモ矧ぎ(バットジョイント)で十分な強度がある。
非常に正確に加工されたフィンガージョイントを除き、フィンガーには、接着強度の向上の他に、板矧ぎの目違いを無くすという目的がある。この場合、加工精度がほどほどであれば、逆に接着面が完全に接触しないということも起りうる。そのような場合、正確に加工されたイモ矧ぎのほうが広いきちんとした接触面を持つことになり、かえって接着強度が高いということも起る。 - TP-111の可使時間(ポットライフ)は、およそ夏場で三十分、冬場で一時間。
- TP-111の堆積時間(接着剤を塗布し始めてから圧締まで)は十五分以内で。(できれば十分以内)この時間はどうしようもない。
- TP-111の圧締時間は夏場で四十~五十分。冬場で一時間。室温五度以下の場合は圧締時間を長く取ること。
- ハタ金での圧締の場合、当て木は、硬く、厚く、広いものを用い、圧力がなるたけ均等にかかるようにすること。
- 養生(圧締時間)は、できれば二日位(最高強度に達する時間)取りたい。
- 主剤の使用期限は半年であるが、結構長期でも大丈夫のようである(ケースによる)。たまに使用する場合、主剤は撹拌したほうが良い。
- 「水ビ」のほうが「α-オレフィン系接着剤」(大鹿:クラタックN100 / 小西:SH20等) より接着強度、耐水性は高い。
- 「水ビ」の接着層がだんだん茶色に変色していくのは、イソシアネート(硬化剤)が酸化していくためで、やむえないが、改良により良くなってきているはず。
- 塗布した接着剤の表面の乾燥を防ぐために水を加えて粘度を下げ、使用するのは強度低下の原因になる。速乾型であるTP-111が使いにくいような場合はPII-131などにかえたほうが良い。
- 「酢酸ビニール系接着剤」に「水ビ」の硬化剤を入れることは強度、耐水性向上になるが、「α-オレフィン系接着剤」にはほとんど意味をなさない。
- 板矧ぎの場合、接着面はツルツルの状態が理想であるといわれるが、接着強度試験ではペーパーで表面を荒したほうが結果は良い。
- 「酢ビ」や、「α-オレフィン系」でも充分かもしれないが、オーバースペックなものを使用するということは、予期しない苛酷な状況においての接着部分の故障を救う。
- 板を接着すると接着部分が水分で膨張する、解圧しすぐにプレナー加工した時点では、接着層は完全に乾燥しておらず、しばらくすると矧ぎ部分が収縮し、凹む。このトラブルは、三ヶ月(!)の養生を行なうことによって完全に無くすことができる。
速 乾 型 | 一 般 型 | ||||
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pi-131 | pi-148 | tp-111 | pi-120 | pi-127 | |
不揮発分(%) | 53 | 46 | 60 | 43 | 40 |
粘度(ps/25゚c) | 80 | 160 | 90 | 70 | 70 |
硬化剤 | h-3m | h-3 | h-3m | h-3 | h-3m |
可使時間(分) | 80 | 40 | 60 | 120 | 120 |
堆積時間(分) | 15 | 20 | 15 | 20 | 20 |
圧締時間(分) | 30 | 20 | 30 | 180 | 150 |
接着力(kg/平方センチ) | TYPE-2,73 | TYPE-2,71 | TYPE-1,91 | TYPE-2,68 | TYPE-1,92 |
■[参照] : ピーアイボンドの性状及び作業性(大鹿テクニカルノート 商品篇 No.46より)
■関連資料:水性ビニールウレタンの接着について
接着及び接着剤(水性ビニールウレタン)についての関連資料を雑誌「室内」より許可を得て転載します。
接着条件について
まず、材料の含水率は10パーセント前後にするということ。
木工用の接着剤には多くの水が含まれます、木材はその水分を一時的に吸い取るわけですから、それだけ含水率は増加します。できれば、接着する材料は前述の含水率以下に調整しておく必要があります。充分乾燥していない木材を接着すると、接着剤中の水分の逃げ場がなくなり、固化する速度が著しく遅れ、仮に接着できたとしても、水分が多いと後日必ず木材は収縮するため、接着層が切れてきます。つまり、含水率管理や木の使い方等(木理、心辺材への配慮)、接着層にストレスのかからない配慮が必要というわけです。
接着剤は被着材料に塗られた瞬間から乾き始めます。含まれている水分が木材中にし浸みこんでいくからです。したがって塗布した材料は速やかに接着し、圧力をかけることが必要です。木工用の酢ビエマルジョン接着剤の場合、塗布接着後、プレスに入れるまでの時間(堆積時間)の限界は、20度C の環境下で15分内外です。それ以上長くなると、接着剤の流動性がなくなり、薄い均一な皮膜ができなくなるばかりか、場合によっては、他面の材料に接着剤が濡れず、いわゆる前硬化という現象を起こして大きな事故に結びつきます。
水性高分子イソシアネート系接着剤(水性ビニルウレタン系接着剤)について
この接着剤は、ポリビニルアルコール(PVA)を含む水性エマルジョンを主剤に、イソシアネート系化合物を架橋剤とする複合系接着剤です。イソシアネートは水と反応しますので、両者を混合することによって、PVAとイソシアネートの間に架橋反応を起こさせるのです。さらに、木材繊維とイソシアネートの間にもウレタン結合が形成されますので、より高い接着性能が得られるわけです。
優れた接着性能
水ビは従来木材用接着剤として最も優れているといわれているレゾルシノール樹脂接着剤にはわずかに及びませんが、ユリア樹脂、酢ビエマルジョン、α-オレフィン樹脂等の接着剤と比べると、はるかに高い性能をもっています。
難着木材にもよく接着する
また、チークやローズウッドなどの難着材や高比重材などの接着にも良好な接着性示します。硬木には高比重用に改質されたタイプ(例えば PI-127)を用いるほうがよい。
塗装面や異種材料にも接着する
塗装面や無機材料、金属材料など実に様々な材料を接着することができます。
ただし、この接着剤は水性ですから被着材料の片面が水を吸ってくれなければなりません。
接着速度が速い
α-オレフィン系接着剤にはかないませんが、速乾タイプであれば30分圧締でOK。
中性接着剤
この接着剤は中性のため、木材を汚染することはありません。強酸や強アルカリの接着剤を使用した場合は、その酸やアルカリによってながい年月の間に木材組織が傷められる場合がありますが、この接着剤は中性ですからその心配はありません。
熱圧接着可能
つき板の接着や接着工程をさらに短縮化したい場合は、熱圧接着をおこなうこともできます。この場合、加熱によって架橋密度が高まり接着性能も向上します。
低温でも接着が可能
この種の接着剤は0度C近くでも安定した接着性能が得られます。
刃物を傷めない
主剤が熱可塑性樹脂ですから、接着層は熱硬化性樹脂のように硬くなりません。したがって加工時に刃物を傷めることはありません。
堆積時間に注意
この種の接着剤は造膜性が大きく、塗った皮膜がすぐ乾いてきます。速やかな圧締を。
含水率
この接着剤の硬化剤のイソシアネートは水分と反応するため、高含水率の場合は接着力低下の原因となります。接着する木材の含水率は10~15%が適当です。
塗布量
前述のとおり、この接着剤は乾きが速いので塗布量を多めにしたほうが無難です。
■参考文献:室内 二月号 NO.302 (1980) / 七月号 NO.307 (1980) / 工作社