木工旋盤 WT-300 のチューンナップ 6
■WT300のインバータ化 1
WT300最後(?)のメジャー改造です。結論から先に言うと、インバータ化は大正解でした。
もう一台の、ベルト式変速装置付旋盤の出番はほとんどありません。
変速がボリューム一つで行えるのは実に有効で便利です。
私は、旋盤でラウンダーを使用しています。その場合、インバータ化後もベルトの掛替をしています(後程解説)。それでも、インバータ化は正解でした。
以下に、インバータ化に必要な機材、解説を載せます。
■インバータ化に於けるモータの選定
WT300は、単相0.5kwモータが使われていますが、インバータ化では、通常三相200Vモータを使用します。
家庭用電源である、単相100Vを三相200Vに変換するインバータもあります。これを使用すれば、三相200Vを引いていない方でも、三相モータを用いたインバータ制御が行えます。
ただし、単相100Vでは0.75kw程度までしか使えないので注意が必要です。
使用する三相モータですが、4P型の(注1)、0.4kw(0.4Kw-4P)か、0.75kw(0.75Kw-4P)になるかと思います。
これらは、そのまま、WT300のフレームに乗るからです。
三相モータには、大きく分けて、防滴保護形と、全閉外扇型の2種類があります。
防滴保護形は、屋内で使われるモーターです。冷却風がモータ内部を通り、構造が簡単なため、外扇モーターと比べて安価です。
全閉外扇モータは、屋外、もしくは比較的粉塵が多い場所で使われていることが多いモーターです。外部に露出したファン(カバーで覆われている)で本体表面を冷却します。
粉塵の多い木工房では、このタイプがベターだと思います。
0.4kwモータ、インバータは安いのですが、余裕を見て、0.75kwモータが良いと思います。
よって、WT300の場合、最良と思われるモータは、「全閉外扇型0.75Kw-4Pモータ」ではないかと思います。
注1:三相モーターの極数
汎用三相モーターには、それぞれ、2P、4P、6P(極)があります。
2Pモーターは、トルクが4Pモーターの2/4倍(0.5倍)で、逆に速度は2倍。
6Pモーターは、トルクが4Pモーターの 6/4倍(1.5倍)で、速度は4/6に落ちます。
一般的にインバーターの最大適用モーターは、4Pモーターを基準に定められており、インバーターの定格電流が、4Pモーターの定格電流に対して十分余裕があるようになっています。
しかし、モーターの極数が4Pよりも増える場合は、モーターの定格電流が大きくなり、インバーターの定格電流より大きくなると運転できなくなるので、特に注意が必要です。
■モータベース
モーターの選定で、重要な点は取り付け寸法でです。
モーターベースからシャフトセンターまでの高さと、モーターベースの取付穴間隔が特に重要です。
シャフトセンターまでの高さは、フレームナンバー(枠番号)で表されます。
仕様書上のシャフトセンターまでの高さは「C」で表されています。
参考までに、一例を挙げます。
三菱全閉外扇型モーターSF-JR 型のフレームナンバーは、
400W-4P:71M -(シャフトセンターまでの高さ:C=71㎜)
750W-4P:80M -(シャフトセンターまでの高さ:C=80㎜)
フレームの取付け穴間隔(いずれもセンターからの距離)。
以下の例は、枠番号:80Mです。
モーター軸中心側:E(で表されている)(62.5㎜)
つまり間隔は:2×E=125㎜
モーター側面側:F(で表されている)(50㎜)
つまり間隔は:2×F=100㎜
(これらの寸法は、他のメーカー(日立、富士電気も同一)
いずれの値を見ても、WT-300に載せることは可能です。
1.5kw モータは、C、E、F 値が大きいため、そのままでは乗せることが出来ません。
■プーリとベルト
プーリ選定にあたり、基本的な回転数設定をしなければなりません。
一般的には、5段プーリの、モータ側から3段目を常用している方が多いと思います。
3段目ですと、約1500 回転。
4段目ですと、約2500 回転です。
三菱4極 SF-JRモータ(0.75kw)の定格回転速度(r/min)は、以下のとおりです。
50Hz:1400(r/min)
60Hz:1690(r/min)
インバータによる回転制御ですが、モータは定格回転数の10%増し程度ですと全く問題ありません。
20%増しでの長時間運転は避けた方が懸命かと思います。
回転が低すぎると、冷却が不充分になる可能性がありますので注意が必要です。
よって3段目と同程度のプーリを使用し、上限を約2500回転としてインバータ制御するとします。
小さいプーリですと、ドライブセンター側で2500回転の場合、モータの回転が、定格回転速度をかなり超える可能性があります。事前にプーリ比によるモータ回転数を計算すべきでしょう。
鍋屋バルテックのプーリを例にしますと、使えそうなプーリは以下だと思います。
(他社からも販売されていますし、最終的には、各自が使用する必要回転数で決定して下さい)
品番 | 外径 | 最大軸穴径 |
---|---|---|
3 1/2-M-1 | 88.9 | 18 |
2 1/2-A-1 | 68.5 | 21 |
3-A-1 | 76.2 | 24 |
3 1/2-A-1 | 88.9 | 24 |
上記M型プーリの最大軸穴径は、Φ18㎜です。
0.75kwモータの軸径は、Φ19㎜ですが、問題ありません。
ただし、鍋屋の加工サービス(有料)は受けられませんので街の加工所に頼みます。
WT300は最も細い、Mタイプベルトと、それに合ったM型プーリを使用しています。
しかし、購入できる小径汎用プーリの種類は少ないので、場合によっては、上位の、Aタイププーリを使う場合も出てきます。
ただし、WT300のドリブンプーリ(ドライブセンター側プーリ)は、M型プーリですので、Mタイプベルトを使うべきだと思います。
もしも、モータ側にA型プーリを使った場合でも、Mタイプベルトで問題ありません。
AとM形プーリのV溝は相似形ですので、細いMタイプベルトは、A型プーリの溝に対して若干沈み込むだけです。底には接触しません。
■回転計
非接触式の回転計も必要です。最近は、安い非接触式デジタル回転計が売られています。
ドライブセンターの回転数を測りながら、インバータの周波数を確認するためです。
余談:アナログの好きな私は、非接触式アナログ回転計を購入しましたが・・・。
■進相コンデンサとインバータ
三相電源下でインバーターを使用する場合、注意すべきポイントがあります。
電源側に入っている進相コンデンサ(注2)です。
インバータから発生する高調波が、進相コンデンサを加熱や破損させる可能性があり、危険なのです(注3)。
また高周波は、インバータが入っている電源の進相コンデンサだけではなく、他の回路に入っている進相コンデンサ、更には近所の他事業所にも影響を与えます。
高周波の発生量は、配線インピーダンス、負荷側の出力周波数、出力電流の大きさ、リアクトルの有無で変わってきます。
以下に、インバータを使用する場合の高周波対策の例を挙げます。
1.進相コンデンサを取らず、現状のまま使用
メーカーに確認した所、最近のコンデンサには安全装置が入っており、最悪の場合、それが作動するので、火災の心配はないとのことです。
小規模事業所で使用頻度が低い場合は、サーモシールをコンデンサに貼り付け、コンデンサの温度をチェックしながら使用する方法もあると言われました。
実際に、どの程度コンデンサの温度上昇があるのか試してみましたが、2~3時間では、暖かくなることもありませんでした。
高周波の発生量は、事業所環境によっても違いますし、決してこの方法を薦めているわけではありません。
問題点1:近所に事業所がある場合は、高周波の影響を与える可能性があります。
問題点2:個人的にお薦めしません。
2.進相コンデンサを取って使用
当初私は、この方法で使用していました。
インバータを使用する回路の進相コンデンサを取って使用。高周波の影響を遮断するために、他の回路のメインスイッチは、全てOFFにしておきます。
問題点1:近所に事業所がある場合は、高周波の影響を与える可能性があります。
問題点2:力率(注4)が下がる。
問題点3:使用のたびにスイッチを切るのが面倒。。
3.リアクトル(注5)を使用
一般的にはインバータを使用する場合、電源側には進相コンデンサを入れないことが原則になっています。そして、力率改善、高調波軽減のために、「ACリアクトル」と「DCリアクトル」の両方入れることが推奨されます。
下表は、私が使用している、0.75kwインバータのデータです(メーカー取扱説明書(応用編)から引用)。
DCリアクトルのみ入れれば、5次高周波はリアクトルなしの場合の半分以下になり、7次以降の場合は更に少なくなっています。
高周波含有率 | ||||
リアクトル | 5次 | 7次 | 11次 | |
三相ブリッジ (コンデンサ平滑) |
なし | 65 | 41 | 8.5 |
あり(交流側) | 38 | 14.5 | 7.4 | |
あり(直流側) | 30 | 13 | 8.4 | |
あり(交・直流側) | 28 | 9.1 | 7.2 |
念のためにメーカーに問い合わせると、DCリアクトルだけでもOKだということです。
また、DCリアクトルを取り付ける場合、進相コンデンサも入れたほうがいいとのことでした。
最終的に、進相コンデンサは取らず、高調波軽減のため、「DCリアクトル」のみ使用しています。因みに、コンデンサが熱くなることはありません。
入手したのが、画像のDCリアクトル。未使用旧型です。
サイズは、10×6×9(H)cm程度。
注2:進相コンデンサ
三相電源は、力率(注4)が幾ら以上では従量幾らと言う計算になっており、力率が低くなると電気料金が加算される。そのため、力率を上げる対策として、通常は電源側に進相コンデンサを取付ける。
注3:進相コンデンサへの高周波の影響
インバータの電源側に流れる電流波形には、高調波がかなり含まれています。
進相コンデンサは正弦波の電流波形(高調波含有率0%)を想定しているので、高調波が含まれていると、コンデンサのインピーダンス(電流の流れにくさを示す。直流での抵抗に相当する値)が下がり、高調波に連動して多量に電流が流れ、コンデンサを焼損させる可能性があります。
注4:力率
力率というのは、電気の使用効率のようなもので、交流では力率の値が大きな意味を持っています。
重い荷物を2人で持ち上げる場合、声を掛けてタイミングを合わせ、タイミングがズレると力は弱まります。
電気の場合、交流の電圧が最大値になる瞬間と、電流が最大値になる瞬間が完全に同時だと一番効率が良く、このとき力率が100%となります。
力率は電圧と電流の位相角(ズレ)の余弦、COSθ(θ:位相角)で求めます。
何故、電圧と電流がズレるか判りませんが、何しろズレます(遅れる)。そして、コンデンサを流れる電流のベクトルは、電圧ベクトルより90°進む。そのため、コンデンサを入れて進相させ、力率を上げるそうです。
九州電力の電気供給約款によると、力率85%以下では電気代は5%上がり、85%以上では5%ダウンするとなっています。
注5:リアクトル
「ACリアクトル(ACL)」「DCリアクトル(DCL)」の補足説明。
ACLは入力力率約90%、DCLは入力力率約95%のため、DCLの方が入力力率の改善効果がある。
高調波電流対策においてもDCLの方が低減効果がある。
DCLはインバータの直流部分に装着するため、DCL接続用の端子がインバータに無いと接続できない。旧型のインバータにはこの端子が無い場合がある。
(三菱電機FA機器のFAQサイトより抜粋)
電気に関しては、よく判りませんので、文中間違いがありましたら御指導、御指摘下さい。
インバータの理解、導入に当たっては、「T's 韓国日記」のMさんに御指導頂きました(感謝)。