曲げに必要な機材について
■ベンディングベース
蒸された材はフォーマーにそって曲げて行きますが、そのとき、曲げる材料とフォーマーには相当の力がかかりますので、それらはしっかりと固定されなければなりません。英国のウインザーチェアメーカーは、曲げ専用の作業台を持ち、作業台に取り付けられた太いボルトでフォーマーをしっかりと固定しています。私は専用の作業台を置けるスペースを持ちませんし、それを製作するのも大変ですので、ベンディングベースというべきベースを作り、そのベースを作業台にF型クランプで固定して曲げ作業を行っています。
写真はマレーシアで制作したベンディングベースです。三個のF型クランプでワークベンチに固定しています。
フォーマーを固定する二本のボルトは、鉄板(サイズ400×200mm/厚さ5mm)に溶接し、その鉄板をベニア(コンパネ二枚)に裏面から取り付け、このボルトにフォーマーをセットします。ボルトの先端はグラインダーで大きめに面を取り、フォーマーの穴に入りやすいようにしておきます。フォーマーは曲げ「R」の種類によって作業途中で交換しますので、容易に交換できるように蝶ナットでロックしています。
フォーマーの前方にはストッパーとなる木製ブロックをベースにボルトで固定します。曲げられる材料はフォーマーとブロックの間で二本の楔によってしっかり固定されるわけです。
このベースは強度的にも問題なく、作業中もフォーマーが動くということもありません。使わないときには立てかけて置けますので場所を取りません。注意点として、ベンディングベースの両サイドの角が、曲げていく時に材と接触しますので、ベンディングベースの幅は、なるべく広いほうが良いかと思います。マレーシアで制作したものは3×6サイズ(900×1800mm)です。参考までにベンディングベース各部の寸法を載せておきます。
■フォーマー (曲げ型)
曲げ用の型です。曲げにおいて非常に重要な用具の一つで、「R」の違う曲げパーツに付き一つのフォーマーが必要です。蒸した材をこのフォーマーに沿って曲げていきます。フォーマーは、合板やMDFのような木質系の作りやすい材料で製作します。時にはコンティニアス アーム ウインザーチェアのような肘掛と背もたれが一体となった三次元曲げの型まで木や、木質系材料で作られます。
フォーマーはネガティブスプリングバック、および、ポジティブスプリングバック(曲げ戻り)を見越して仕上がりより多少小さめ、または大きめの「R」で製作します。スプリングバックは、「材料」、「仕上がりR」、「含水率」、「乾燥方法」等によって起こります。
乾燥炉を持たない一般工房の場合、過乾燥の可能性はほとんどありませんから、通常ネガティブスプリングバックの発生は低いと思います。そのため、フォーマーはスプリングバックを見越して仕上がりより多少きつめの「R」で製作します。どの位きつめにするかという問題ですが、これは「経験と感覚」です。具体的にこれだというものはありませんが、非常に大雑把に言いますと、曲げられる材質、曲率にもよりますが、途中の「R」は仕上がりとほぼ同じで、開きの部分だけを絞ります。片側で、仕上がりより10mm 前後内側に絞る感じでいいかと思います。これで大体良いと思える「R」は得られると思いますが、どうしても意図通りにならない場合は、途中の「R」も含め全体的に少し小さくします。
フォーマーが円の場合は、直径を10mm 前後(目安として半径500mm程度の曲率の場合)小さくします。私はこんな感じでフォーマーを制作しています。なにしろ正解というものはありませんので、一度作って曲げてみて、どのくらいスプリングバックを生ずるか確認してみて下さい(注1)。そして、フォーマーの「R」の「感覚」をつかんで下さい。
フォーマーの厚みは基本的には曲げる材料の厚みであれば良いわけですが、そのフォーマーで幅の広い材を曲げる場合もあるかもしれませんので、多少余裕を持ったものにしておきます。私のものは厚さ40mm です。中央部にフォーマー ベースに固定するためのボルトを通す穴を開けておきます。
フォーマーのトップセンターにマークをしておきます(写真参照)。曲げる材はセンターで固定し、左右均等に曲げなければならないからです。
注1)スプリングバックについて
この問題はなかなか一概にいえない部分も多いのです。第一に、曲げた後、フォーマーに固定したままで乾燥させた場合、フォーマーから外した後、スプリングバックを生じ、意図した「R」より広がった場合は、材の乾燥不足が考えられます。
第二に、伝統的なウインザーチェアメーキングでは材を曲げた後、すぐにフォーマーから外し、クランプなどで固定しておくという方法をとります。このときの固定の仕方で「R」は、ばらつきます。ただし、伝統的な作り方の場合、多少のばらつきは意に介しません。
第三に、フォーマーの「R」より曲げすぎるということがあります。材はフォーマーより長く木取っています。勢い余って曲げると、フォーマーから長く伸びた材は、フォーマーより内側に入りすぎる場合があります。この場合「R」はきつくなるようです。また、過乾燥によって「R」が小さくなる場合もあります(ネガティブスプリングバック)。