オイルフィニッシュ用塗料の各構成要素について / 溶剤
■溶剤について
オイルフィニシュ用溶剤(油性塗料用溶剤)は一般に炭化水素系溶剤(注1)が用いられます。炭化水素系溶剤には大別すると脂肪族、芳香族、植物性、ナフテン系などがあります。このうち、芳香族系溶剤は最も溶解力が強く、脂肪族系溶剤(注2)は最も溶解力が弱いものです。一般の乾性油、及び天然油脂は溶剤に溶けやすいので、油性塗料には脂肪族系溶剤を用いるのが普通です。本項では、オイル仕上にとってなじみの深い、脂肪族系溶剤と植物性溶剤について、主な種類と性質を述べます。最初に塗料用溶剤として要求される主な性質を述べておきます。
- 固形分に対する溶解性が良い。
- 適当な揮発速度を持つ。
- 不揮発成分を含有しない。
■脂肪族系溶剤
原油は蒸留により揮発油、灯油、軽油、重油に分留されます。このうち、油性塗料用溶剤として用いられるのは揮発油と灯油です。主成分は脂肪族炭化水素です。脂肪族系溶剤が用いられる理由としては、天然油脂に対する溶解力がよく、再塗装の際、最初に塗った塗膜がリフティング(縮みがでたり、シワになったりすること)しないということです。ラッカーやウレタンで上塗りした場合、下地塗料がリフティングにより、シワになって剥がれたりした経験を持つ方も多いと思います。以下、主な脂肪族系溶剤です。
ミネラルスピリッツ
もともとテレピン油の代用溶剤として作られました。沸点150~200℃。乾性油や天然油脂に対する溶解力がよく、揮発速度もかなり早い。したがって、油性ペイント、ボイル油の溶剤として用いられています。
3号揮発油
沸点80~150℃。ミネラルスピリッツにくらべて揮発が早い。したがって、特に揮発速度の早いものが要求される場合に用いられます。
灯油
沸点150~250℃。揮発速度が遅いので、ワニス用には用いられませんが、油性ペイント、ボイル油のシンナーとして用いられます。揮発が遅いので刷毛さばきや流動性はよくなりますが、多量に配合すると乾燥を著しく遅くなりますから配合量には注意が必要です。
イソパラフィン(参考資料)
ドイツ、リボス社が製造販売しています自然塗料(自らそう謳っています)「メルドス」に使われているシンナーです。リボスの「メルドス」についての説明書では、ナチュラルソルベントであるテレピン油は、芳香族炭化水素系溶剤と同じくらい人体に対しての危険性がありますが、イソパラフィンはナチュラルソルベントに優る安全性を持つと書かれています。イソパラフィンはイソブテンとn-ブテンを共重合した後、水素添加して得られる炭化水素の化合物です。
■植物性溶剤
通称テレピン油は以前から用いられてきた最もポピュラーな植物系溶剤です。他にもラベンダーオイル、オレンジピールオイル等々ありますが、ここでは省略します。
テレピン油
生松やにを蒸留して得られる蒸留物です。また、松根の蒸留によっても得られます。前者をゴム(ガム)テレピン、後者をウッドテレピンといいます。テレピン油は、無色または淡黄で特有の香りがあり、溶解力は揮発油よりも優れ、適当な揮発速度を持ち、良質な油性塗料用の溶剤です。かっては油性塗料用溶剤にはもっぱらテレピン油が用いられてきましたが、今日ではほとんどミネラルスピリッツにおきかえられています。また、別名、テルペン油、ターペン油、松精油とも呼ばれます。ヨードに触れると爆発し、硫酸に触れると激しく発熱します。なお、ガムテレピンの国内での製造は年間約300トン(平成2年)で、主に日本テルペン化学、ハリマ化成、ヤスハラケミカルなどで行なわれています。
樟脳油
片脳油、芳油、ホンショウ油、芳白油、カンプラ油ともいいます。防臭剤、防虫剤、石鹸、医薬品、代用テレピン油 等。樟(クスノキ)の幹、枝、根、葉などのチップを水蒸気蒸留して得られます。原木からの留出物の約四割が樟脳で、これを分離した残油を樟脳原油といい、これにはさらに約5割の樟脳(注3)が含まれます。その他に、白油(ホワイトオイル)20%、赤油(ブラウンオイル)22%、藍(ラン)油(ブルーオイル)(注4)1~2%が得られます。白油はいわゆる片脳油ともいわれ、テレピン油の代用として塗料用溶剤に、また消臭剤、香料原料としても利用されます。
注1)炭化水素系溶剤
炭素と水素の化合物系の溶剤。さらに酸素原子を含んだ脂肪族、芳香族等に分類される。
注2)脂肪族系溶剤
炭化水素系有機化合物のうち、分子内の全ての炭素が鎖状につながっているもので、長油性アルキド樹脂、石油樹脂等の溶剤となる。
注3)樟脳(Camphor/別名:d-カンフル)
無色透明あるいは白色結晶、結晶性粉末あるいはもろい塊りで、脂肪のような感触で、独特な香りがあり、揮散しやすい性質。セルロイド、ニトロセルロースの可塑剤、防虫剤、医薬品などに利用されている。かつて我国は世界で唯一の天然樟脳生産国であり、現在でも少量輸出されている。
注4)赤油、藍油
農薬、防虫防臭剤、医薬品 等に利用される。
■テレピン油、α-ピネン、樟脳油等の製造販売会社会社について
参考までにテレピン油、α-ピネン、樟脳油、イソパラフィン等の製造販売会社会社、代理店を紹介しておきます。 | |
テレピン油、α-ピネン、樟脳油等 |
ヤスハラケミカル (株) 〒726 広島県府中市高木町 1080 Tel: 0847-45-3530 / 03-3563-2647 |
日本テルペン化学 〒651 兵庫県神戸市中央区脇浜町 1-4-10 Tel: 078-231-1331 / 03-3241-1216 |
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樟脳油、ガムテレピン、ウッドテレピン等 |
丸本化学製油(株) 〒557 大阪市西成区 3-11-9 Tel: 06-661-2010 |
樟脳、樟脳油 |
内野樟脳 〒835 福岡県山門郡瀬高町上長田 Tel: 0944-62-2985 |
日本精化(株) 〒541 大阪市中央区備役町 2-4-9 Tel: 06-231-4781・03-3504-0451 |
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イソパラフィン |
岩瀬コスファ 〒103 東京都中央区日本橋掘留町 1-3-15 藤和日本橋掘留ビル Tel: 03-3639-3456 |
油化産業 〒103 東京都中央区日本橋小舟町12-10 共同ビル掘留 Tel: 03-3664-3081 商品名:NAソルベント NAS-3 |
以上オイル仕上げに用いられるオイル、及び溶剤について大ざっぱに述べてきました。職業訓練校のテキストなどで述べられていますが、オイル仕上げの方法の中で、チークオイル仕上げやボイル油仕上げなど、異なったオイルによって仕上方法が異なっているという点について、はたしてどれだけ意味を持つのかと考えます。大切な点は、各自がオイルや溶剤の性質をどれだけ把握して使用するかということだと思います。
■油性塗料用溶剤
脂 肪 族 炭 化 水 素 |
揮 発 油 |
3号揮発油 | 沸点80~150℃ | |
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4号揮発油 | 沸点150~200℃ | |||
ミネラルスピリッツ | 沸点150~200℃ | |||
灯油 | 沸点150~250℃ | |||
植 物 性 |
テレピン油 第一種(ガムテレピン) | 沸点150~170℃ | 生松脂を蒸留 | |
テレピン油 第二種(ウッドテレピン) | 沸点150~170℃ | 松根を蒸留 | ||
樟脳油 | 沸点150~170℃ | 楠の根幹を蒸留 |