オリジナルオイル
オイルフィニッシュに関してのオイルや、その他の構成要素を述べてきましたが、次にオイルの性質などを踏まえ、オイルフィニッシュ用オイルのクォリティを上げることはできないだろうか、また、自分自身で好みのオイルを調合して作れないだろうか、という点について考えていきたいと思います。
自分自身でオイルを調合し、オイル仕上に用いるということは、アメリカの木工の専門誌などにも随分以前から紹介されていますし、広く行なわれています。
その方法は、それほど特殊でも難しいことでもなく、オイルをベースにする油絵の世界では至極当たり前のことで、考え方としては、我々が行おうとしているオイルミックスチャーに非常に近いものがあります(むしろ、油絵の具の調合法を参考にしたほうがいいかもしれませんが…)。
オイルの調合(オイルミックスチャー)の目的と意義を上げてみます。
(1) オイルの乾燥速度を早める。
乾燥速度を早めることは非常に大切です。
第一に作業の効率を上げることができます。また、テーブルトップなどは常にフキン等で拭かれますが、未乾燥のオイルは、その水分で変質する可能性があります。
さらに、梅雨時期や高湿度の環境下に置かれた家具の背面など、人に触れない部分で、未乾燥のオイルにカビが発生している場合があります。その対策のためにも、速やかな乾燥は必要と思われます。
ちなみに0℃前後の環境では、乾燥性の速い「桐油」でも乾燥に一ヶ月以上かかります。
市販のオイルをガラスの上に滴下し、どの位の時間で乾燥するものか、各自乾燥時間を確認して下さい。冬場はなかなか乾燥するものではありません。
(2) 塗膜のクォリティを上げること。
耐水性と耐湿性、及び表面硬度の向上。
オイルフィニッシュはオープンポアフィニッシュのため、表面にほとんど塗膜が存在しません。そのため、改質したにせよ、効果はあまり期待はできませんが。
(3) より安全なオイルを使いたい。
最近は、住環境の安全性がかなり認識され始めています。家具に使用される塗料についても、関心が高まりつつあります。そして、家具用低公害塗料の輸入代理業者は、かなりの高価格で販売しています。しかし、簡単なオイルフィニッシュ用無公害塗料は自分の手で作れるのです。
(4) 目的の性質のオイルをより安く入手したい。
素材で購入するため、市販のオイルフィニッシュ用塗料よりも安く、目的のオイルを得ることができます。
(5) 用途に合せてアレンジしたい。
用途やクオリティ、制作時間、安全性など、用途や目的、お客さんの要望に合せて配合を細かく変えることが可能です。
およそ、以上であろうと思われます。目的に応じ、適切なオイル、樹脂、溶剤を自分自身でミックスしていくことは意味のあることだと思えますし、何より興味深い作業です。
■オイルの混合について
オイルフィニッシュ用オイルは、決して特殊なものではなく、極端に言えば絞ったままの生の亜麻仁油(Low Linseed Oil)をそのまま塗ってもオイル仕上げにはなるわけです。しかし、それでは粘度が高く、作業性、浸透性が悪いためにシンナーで希釈し、また乾燥が遅すぎるのでボディー化した煮亜麻仁油(Boiled Linseed Oil)を用いるわけです。これでもまだ乾燥が遅いという場合には、乾燥剤を添加します。
既製品は、基本的にこれと同じ考えで製品化したものと捉らえていいのです。このようなオイルを用いて仕上げたものが、「亜麻仁油仕上げ」や、「ボイル油仕上げ」と呼ばれたりしているわけです。つまり、オイルフィニッシュの一種というわけです。
繰り返しますが、アメリカなどでは、ウッドワーカー自身が、亜麻仁油や桐油を適当な割合に混合、調合して塗るのは珍しいことではなく、「生亜麻仁油」、「煮亜麻仁油」や「桐油」は一般に販売されています。
また、別の方法として、以前からアメリカなどで行なわれているものに、オイルに対しアルキッド樹脂塗料(我国ではエナメルとも呼ばれています)を混入するという方法があります。この方法の意味は、オイルの乾燥を早めるということに加え、耐水性、耐湿性、さらには塗膜硬度の向上が期待できるという点にあります。
同じ目的として、アルキド樹脂塗料の代りに、油変性ウレタン樹脂塗料を混入するという方法があります。これは、アルキド樹脂塗料よりもウレタン樹脂塗料の塗膜の物性が良いこと(乾燥性、硬度、付着性、耐摩耗性、耐薬品性)、オイルとウレタン塗料が結合しながら乾燥していくため、塗膜強度が向上するという利点があります。
他に、目的は少しばかり異なりますが、漆にも種類により補助剤(増量剤)として乾性油(主に荏油)、樹脂、水飴、蜂蜜などを生漆に対し10~40%混入するという方法が行なわれています。この場合のオイルの混合の目的の一つは、レベリング。流動性の向上です。刷毛目を目立たなくさせるためです。溶剤を加えても同様の効果がでますが、後で塗膜は肉痩せします。乾性油の場合、それは起きません。
このように目的に応じ、各自がオイルや塗料を調合してオリジナルオイルを作るということは特別困難でも特殊なことではありません。しかも、オイルフィニッシュ用オイルの場合、安全性を含め、従来品を上回る物性を持つオイルを得ることが可能なのです。